小島薬局在宅センター薬剤師の田中です。
皆さん、病院やクリニックなどで点滴をしたことがありますでしょうか?点滴をやったことがなくても、テレビドラマなどで病院内の場面で点滴が出てくるシーンを見たことがある方もいると思います。
おそらく医療従事者でない方は、点滴をしている場面を観て「何か大変な治療をしているんだな」といったような漠然としたイメージをしているのではないでしょうか。
今回は点滴の目的についておはなししたいと思います。
点滴の分類
点滴の目的は大きく分けて4つに分類されます。
- 水・電解質の補給
- 栄養の補給
- 血管の確保
- 病態の治療
上記のうち、点滴で最も重要なのは『水・電解質の補給』すること、すなわち体液を正常な状態に保つことです。
私たち人間の体の約60%は水分(電解質を含む)で構成されています。万が一、災害などで水を一滴も飲まない状態が続くと4~5日程度で死に至ります。なので「水・電解質」の存在は人間が生きてくうえで切っても切れない大切な存在です。
水・電解質の補給をするうえで考えること
『水・電解質の補給』をするうえで考えることは、2つあります。
- 嘔吐や下痢などで急激に水・電解質を失ったのか?
- 恒常的に水・電解質の補給が足りないのか?
嘔吐・下痢などで一過性に「水・電解質」が失われた場合は、血管内の水分やその周りの細胞間液が急激に喪失した状態です。そのような場合に選ばれる点滴は「細胞外液補充液」と呼ばれる点滴です。細胞外液補充液は血管内やその周りの細胞間液に素早く「水・電解質の補給」をする点滴です。
数日間、水・電解質の補給不足の状態だった場合は、体の奥の細胞内にある「水・電解質」まで不足して体全体が脱水の状態です。そのような場合には「水・電解質」を細胞内まで補充することができる「維持液類」が選択されます。
栄養補給のための点滴
水・電解質の補給の次に「栄養の補給」が大事になります。私たちの体は栄養を取らないと2~3週間で死に至ります。なので長期間食事が取れない場合は、水・電解質のほかに、糖質、タンパク質、脂質、ビタミン、微量元素などの栄養をバランスよく投与しなければなりません。
一般的に2週間以内の食事が摂れない方の場合は腕(末梢静脈)などから投与される点滴が選択され、ビーフリード輸液に代表される「糖・アミノ酸などを補充する末梢静脈栄養」が使用されます。
末梢点滴で得られるカロリー量は、最大300~600kcal/日と健常成人が1日に必要とするカロリー数にはとても足りない量なので、2週間以上食事が摂れない方は「中心静脈栄養」が必要になります。
体の太い血管からであれば高濃度の栄養点滴を投与することができるため、体の中心静脈から点滴する「中心静脈栄養」は1000~2000kcal/日のカロリーを得ることができます。エルネオパ輸液に代表される「中心静脈栄養」は糖・アミノ酸・総合ビタミン・微量元素・水・電解質などの栄養素を補充できます。
中心静脈栄養の輸液には三大栄養素の一つである「脂質」が含まれていないので、必要に応じてイントラリポスなどの脂肪製剤を併用します。
点滴ルートの確保のための点滴
内視鏡検査中にショックを起こした場合や、血管が細い方の場合などでは、いざ薬剤を投与しようとしても注射針が血管に入らないことがあるため、緊急時に血管確保できない状態にならないよう、事前に点滴ルートを確保しておきます。
実際、病院などでは内視鏡検査を行う前に「細胞外液補充液」をあらかじめ1本投与して急変時に備えて点滴ルートを確保しておく場合があります。
病態の治療のための点滴
感染症の治療で抗菌薬の点滴治療が必要な場合は、抗菌薬の注射を生理食塩水100mLに溶かして1時間で点滴する場合があります。また、肝硬変が悪化して肝性脳症になった場合には、原因物質を改善する点滴をします。がん末期の患者さんに対してモルヒネ塩酸塩注を生理食塩水へ希釈して持続投与することがあります。このように特殊な病態の治療、改善のために使用する輸液があります。
さいごに
このように点滴は患者さんの状態によって使い分けられています。
小島薬局在宅センターでは在宅訪問を行っている患者さんに対して、処方箋に基づいて様々な点滴を提供しています。
今後、自身や家族が治療の中で点滴をうける場合は、これは何を目的としているのだろう?と想像を膨らませ、不安が少しでもなくなれば幸いです。
参考文献 大塚製薬工場