皆さんこんにちは、漢方堂薬剤師の鈴木です。
私たち漢方堂では、一般的な調剤薬局のように病院の処方箋に基づいてお薬を調剤するということはなく、漢方相談によって一人ひとりの体質に適した漢方薬をお選びするということを行っています。
その人に合った漢方薬をお選びするためには当然、漢方的な病気の見立て方というものが必要になります。
今回のコラムでは漢方の世界では“病”をどのように認識しているかお話いたします。
西洋医学は様々な検査機器を使って、血圧や脈拍、呼吸、体温などのバイタルサインを取ったり、
内視鏡、x線、CTなどの画像診断などを活用して身体の異常を調べ、分析して、その原因を取り除きます。
一方で漢方は“身体全体のバランス”という視点を大切にします。
症状があるのは身体の一部分だけだとしても、その根底にはもっと身体の広い部分での不調和が影響していると考えます。
そのため、体の表面の皮膚疾患の場合は胃腸の状態を丁寧に診たり、目の不調の場合は肝臓の状態を診たりするようにつとめます。
こういった漢方の考え方の根底には古代中国の哲学思想が大きく影響しています。
少々難しいお話になりますが、陰陽論や五行学説といった様々な理論があり、その中でも核心となるのが“天人合一”(てんじんごういつ)という考えかたです。
“天”は自然、つまり人と自然は一体であるということです。
古代の人々は季節の移り変わりや月の満ち欠けなど、自然界で起こる現象を丁寧に観察して、いくつかの法則を導き出し、
それを人体に当てはめることで生命活動の仕組みを理解しようと試みました。
昔の人々は現代よりも自然に対する距離が圧倒的に近く、自然を敬い、感謝といった想いを今よりも強く抱いていたことと思います。
そのような環境のもとで、人は自然によって生かされており、自然の摂理に背くと人は病気を得ると考えました。
私はこの考えに触れ、病気にならないようにするためには“できるだけ自然に合わせて、なるべく逆らわない”ということが何よりも大切と思うようになりました。
発熱があれば解熱剤で熱を下げるのではなく、むしろ身体を温めるような漢方を用いることもしばしばあります。
葛根湯という名前の薬を耳にしたことがあるのではないでしょうか?葛根湯はゾクゾクとする発熱のときに用いられ、身体をあたためて風邪症状を改善する代表的な漢方薬です。
体温が上昇し寒気があるということは身体は本質的には暖を求めているのです。
数値を見ることも必要ではありますが、しっかりと自分の身体の声に耳を傾ける事が漢方の本質とも言えるかもしれません。
日頃相談を受け、たくさんの方のお話を伺っていると、病名がつかない不調や身体の一箇所ではなく多数の箇所に対して不調を感じている方が多いというのも感じております。こういった方が少なくなるために、漢方の考え方が広がり、自分の身体の声に耳を傾けることが出来る人が増えれば、より多くの人々が本当の意味での健康でいられると私は考えております。
西洋医学は日々目覚ましい発展があります。科学の進歩に伴い、その視点はより細部へと向かいます。
一方で漢方は極めるにつれて、より全体観というものを重視します。腕の良い漢方の先生ほど、症状がある局所だけでなく身体全体のバランスを整えて病気を治療します。同じ“病”という標的に向かって、漢方と西洋医学は異なったアプローチを行います。それぞれに異なった長所があることを今回のコラムをきっかけ少しでも知って頂き、漢方に興味を持っていただければ幸いです。