皆さんこんにちは、小島薬局漢方堂の鈴木と申します。
今回の薬剤師コラムでは漢方薬についてのお話しをさせていただきます。
最近では、お医者さんの90%以上が漢方薬を処方したことがあるそうです。
皆さんも一度は漢方薬を飲んだことがある人も多いのではないでしょうか。ドラッグストアにもたくさんの漢方薬が販売されていて一見すると身近な存在の漢方薬ですが、それがどういった薬なのか、よく分からないという方も多いかと思います。
今回のコラムでは、漢方薬がどのような薬で、どのように使われているのか、ということをお話しさせていただきます。難しそうに思える漢方薬に少しでも親しみを持っていただけたら嬉しいです。
漢方薬は今から2000年以上前に中国で誕生しました。
飛鳥時代ごろに中国から伝わった漢方はその後、日本人の体質に合わせて独自の発展を遂げていきました。江戸時代になるとそれまでは高価で貴族しか使えなかった漢方薬が、安定して供給されるようになり、庶民の医学として広がっていきました。
江戸時代の医学書を読むと当時の漢方医たちが、様々な流行病や難病に対して漢方薬を駆使して立ち向かい、数多くの命を救っていたことが分かります。
太古の昔から、1種類の薬草だけを煎じて服用するということは行われてきましたが、複数の薬草(生薬)を組み合わせて“葛根湯”のような処方を作り上げたのが漢方薬の大きな特徴です。それもただ、やみくもに“よく効く薬草”だけを組み合わせても良い処方にはなりません。
この辺りのさじ加減は料理にも似たところがあります。例えば、メインになるような美味しい食材だけをたくさん詰め込んでも、それぞれの食材が個々に主張するだけで、全体としては調和のとれた本当に美味しい料理にはなりません。
主役を際立てる脇役の存在もとても大切です。全体としてまとまった時に、最大限の効果を発揮できるように考えて組み立てることが求められるのです。
そして、その人にぴったりな処方を組み立てるために、漢方では“陰陽論”や“五行学説”といった古代中国の哲学を応用します。こう聞くと、なんだか難しそうに聞こえるかもしれませんが、実際はとても単純です。
大昔の人々は身近な自然現象をとても丁寧に観察して、それら自然現象を人間の生命活動にあてはめて物事を考えました。そしてひとつずつ実践した結果が積み重なり、出来上がったものが漢方の理論なのです。ですので、本当は難しい学問の理論という訳ではなく、素朴で温かみのある考え方なのです。
漢方をひと言で現すと“からだのバランスを整える医学”と言えます。別の言い方をすると身体の中の“偏り”を正す医学とも言えます。この“偏り”とはどういったものでしょうか。 例えば身体の持つ“熱”(漢方では“陽気”と呼びます)は人間が生きていくうえでとても大切なエネルギーです。
このエネルギーが不足すると
一方で熱が多すぎると、
が起きてしまいます。
つまり、少ない方に偏っても、多い方に偏っても良くないということです。
漢方ではひとりひとりの体質の偏りを丁寧に観察して、少なければ補い、多ければ取り除きます。自然に合わせて流れに逆らわないという、単純で素朴な考え方に基づいて、身体のバランスを整えていきます。そのためには病人の“病”を診るだけでは不十分で、“人”そのものをよく診なければ適切な漢方薬を選ぶことはできません。これが漢方の奥深さであり、現代医学にはない魅力であると私は考えています。
以上が大まかな漢方薬の説明になります。如何でしたでしょうか、難しそうな漢方理論が、本当は身近な物事から考えられた温かみのあるものであることが少しでも伝われば幸いです。