皆さん、こんにちは！漢方堂薬剤師の鈴木です。
今回のテーマは漢方と睡眠についてです。
不眠症の実態について
2018年、OECD（経済協力開発機構）の報告によると、日本人の睡眠時間は7時間22分と世界で最も短い時間でした。
コロナ禍を経て睡眠時間はますます短縮する傾向にあるようです。現代では5人に1人が不眠症であるとも言われていますが、漢方相談にも非常に多くの方が不眠のご相談にいらっしゃいます。
不眠症という言葉はよく耳にしますが、実際にはどのような状態を指すのでしょうか？
- 寝付くのに何時間もかかる
- 1日に数時間しか眠れない
- 途中で何度も目が覚めてしまう
実は不眠症という病気に明確な定義はありません。
その為、不眠症とは眠れない病気ではなく、眠れないことを悩む病気であると言われます。
漢方相談において不眠症を診るとき、睡眠の質という観点を特に大事にします。ぐっすり眠って、すっきり目覚められる。
朝目覚めて、気持ちの良い睡眠だったと実感できることが大切です。
漢方薬には、脳の神経細胞を鎮静するような直接的な睡眠導入作用はありませんが、睡眠を妨げている何らかの要因を取り除いたり、不足しているものを補ったりすることで体質を改善し、自然な睡眠を導きます。
漢方では不眠症をどのように考えるか
漢方ではしばしば五臓という考え方を用いて病気の原因を考察します。
五臓とは心・肝・脾・肺・腎の五つの臓腑を指します。この五つの臓腑が互いに協力しあって働くことで生命活動を維持することができると考えます。
この五臓とは解剖学的な臓器ではなく、もっと広い範囲での機能を含む、漢方独自の概念です。そのため現代の私たちが考える内臓の働きとは異なる点が多くあります。
五臓の中でも、睡眠は特に「心」という臓腑の状態と深く関わっています。
心臓というと血液を送り出すポンプとしての役割をイメージしますが、漢方における「心」は血液を送り出すだけでなく、精神活動を担う心（こころ）としての働きも含まれています。心の状態が損なわれると、精神的に不安定になり気持ちのよい睡眠が得られなくなってしまいます。
以下に不眠症を引き起こす代表的な体質を説明します。
心血虚タイプ
心の血が不足した状態であり、不眠に加えて以下の症状を伴うことが多いです。
- 精神的に不安になりやすい
- 動機、息切れ
- 顔色が白い
- 夢を多く見る（その夢は悪夢ではなく、とりとめのない内容であることが多い）
心は精神活動にも関係しています。血によって心が満たされると精神は平穏に保たれます。
心の血が不足すると神経が過敏な状態となり、物音や尿意など少しの刺激にも敏感に反応してしまい睡眠が浅くなります。
このタイプに多く見られるのが、胃腸が弱い体質の人です。
胃腸が弱い人は食べ物から気血を作り出す働きが弱く、長い時間をかけて、慢性的な心の血不足になりやすい傾向にあります（心脾両虚と言います）、心だけでなく同時に胃腸のケアも必要になります。
心火タイプ
心が熱を帯びて興奮してしまっている状態です。
- 自律神経のアンバランス、とくに交感神経が活発になりすぎた状態と言えます。
- 普段からイライラしやすい、
- 布団に入ってもしきりに寝返りをうつ、
- 理由はなくそわそわする。
- 赤ら顔、暑がり、高血圧、のぼせやすいなどの症状を伴います。
心に熱が発生する原因として最も多いのはストレスです。心の熱を冷まし、興奮した交感神経を落ちつける漢方薬が用いられます。
心腎不交タイプ
心が熱を帯びて興奮してしまっている状態です。心だけでなく、腎の不調も関係して起こる不眠症です。
漢方が考える腎には腎陰と呼ばれる物質が存在しており、この腎陰が充実していると体に潤いが与えられ、いつまでも若々しくいることができます。
また、腎陰は冷却水としての役割も兼ね備えていて、心の熱を冷ましオーバーヒートを抑制しています。年齢とともに腎陰は減少していくのが自然ですが、過度に減少すると冷却水を失った心はオーバーヒートを起こして不眠症となります。
特に腎陰が減少し始める更年期の方に多く見られる不眠のタイプであり、ホットフラッシュのようなのぼせを伴うことも多くあります。
睡眠のお悩みにはぜひ漢方を！
漢方治療の特徴は、病だけを見るのではなく、人そのものを観るということです。病に至った過程、体質というものを読み解き、個々の人に合わせた治療を行います。
睡眠導入剤を長期にわたって服用しても眠れなかった人が、漢方薬の体質改善によってぐっすりと眠れるようになった人も数多くいらっしゃいます。
睡眠についてお悩みの方はぜひ漢方堂にご相談ください。
